慢性中耳炎とは?
慢性的に中耳に炎症や耳垂れが起こることをいい、いくつかの病気の成り立ち方があります。
ほとんどは急性中耳炎が治りきらずに鼓膜に穴が開いたままになってしまい、風邪などにより耳垂れをくり返すもので、慢性化膿性中耳炎(まんせいかのうせいちゅうじえん)と呼ばれるものです。
他には鼓膜の一部分が中耳側に入り込んで起こるもので、真珠腫性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)とか中耳真珠腫(ちゅうじしんじゅしゅ)と呼ばれます。入り込んだ鼓膜に垢が溜まり、この垢に細菌などの感染が起こることもあり耳垂れになったり、急速に病状が進んだりします。いずれにせよ周りの骨を壊して大きくなっていくので、進展した場合は、合併症としてめまいや顔面神経麻痺や髄膜炎、脳膿瘍などを起こす恐れがあります。
鼓膜の一部が中耳側に入り込んで起こるものの中に垢が貯まらないものもあります。癒着性中耳炎です。鼓膜の一部が鼓室の壁に引っ付いて離れなくなっています。耳小骨の連鎖を壊したり、鼓室の変形が起こってきます。
また、急性中耳炎とはちがい鼓膜に穴が開いたままになっているので、中耳腔に膿が溜まっても中耳腔の内圧が上がることがなく、一般的に耳がはげしく痛むことはありません。
慢性中耳炎の原因は何なのか?
子どもの頃にかかった急性中耳炎が治りきらずに、長期間炎症が続いたり、耳垂れをくり返し、鼓膜に穴が開いたままになってしまったりすることなどが原因といわれています。
鼓膜に穴が開いている状態になると、細菌やウイルスが簡単に耳管を通って中耳腔へ侵入できるため、何度も中耳炎をくり返すことになります。また、耳から汚れた水やほこりなどが入りやすくなるので、炎症を起こしてしまいます。
慢性中耳炎で起こる症状とは?
耳垂れ(耳漏)が出る、耳が聞こえにくい、耳鳴りがする、めまいなどの症状が出ます。真珠腫性中耳炎の場合、合併症として顔面神経麻痺、髄膜炎、脳膿瘍などを起こす恐れがあります。
慢性中耳炎の治療方法は?
基本的にはどの病態であっても手術が第一選択です。手術を行うために乾燥を目指して耳を洗浄したりします。
手術により鼓室の中の形を整え、換気の良い状態を作り、作り替えた形が維持できるようにします。それにより聴力が改善したり、耳垂れが出なくなったりします。中耳真珠腫の場合は、2回に分けて手術を行うことがあります。
1回目の手術で病巣を取り切り、2回目の手術で再発がないかの点検と聴力の改善のための耳小骨連鎖の再建をします。
内服治療
急性中耳炎と同じように、細菌の増殖を抑えるために抗生物質を服用します。ただしお薬は症状を抑えるためのものなので、風邪などをひくと炎症を起こし、耳垂れをくり返すことがあります。一時的な軽快を目指したものです。
点耳治療
細菌の増殖を抑えるために点耳薬の抗生物質を使用します。お薬で症状を抑えられますが、風邪などをひくと耳垂れの症状などをくり返すことがあります。頻回に使用すると耐性菌(抗生物質が効きにくい)や真菌の増殖を招くことになります。安易な使用は禁物です。
手術(鼓膜形成術・鼓室形成術)
慢性化した中耳炎を元から治療するためには、手術を必要とします。手術には以下の2種類があります。
①鼓膜形成術
鼓膜形成術とは、鼓膜穿孔閉鎖術という手術では鼓膜の穴をふさぐことが難しい場合に行われる手術です。
鼓膜の穴をふさぐ材料として、耳の穴の前の出っ張り部分である耳珠というところから軟骨膜のついた軟骨を採取します。麻酔をかけた耳の中で鼓膜の穴の縁を少し切り取り、採取した軟骨膜付き軟骨で鼓膜の穴をふさぎ、生体糊で接着します。
手術にかかる時間は45分ほどです。
当クリニックでは患者様の負担をより少なくするために、局所麻酔を使って内視鏡下での鼓膜形成術を行っております。手術は日帰りで受けていただけますし、軟骨を採る時に耳の中の皮膚を約1㎝ほど切りますが、ほとんど傷は見えません。
②鼓室形成術
鼓室形成術とは、耳の後ろを4~6センチほど切開して、中耳腔内や鼓膜に対して処置をする手術です。また、耳小骨に病変がある場合はその処置をして耳小骨を再建します。さらに、前もって採取しておいた側頭筋膜という皮下組織を使って鼓膜を形成します。
当クリニックでは、当初は局所麻酔を用いた顕微鏡下での手術を行っていましたが、患者様の負担をより少なくするため、2017年から局所麻酔を使った内視鏡下の耳科手術を実施しています。
顕微鏡下で行う手術とちがう点は、耳の後ろを切開しないというところです。そのため、耳の中での操作だけで手術ができ、患者様のお身体や生活への負担が少なくて済みます。また、消毒、ガーゼを当てること、圧迫することなどの必要がありませんので、手術に使う特殊なスポンジと綿球を耳の中に詰めただけの状態でお家にお帰りいただけます。
入院する必要がなく、手術にかかる時間はおよそ60分〜90分ほどに短縮されます。術後の通院は1週間目が初回となります。
現在、鼓室形成術を日帰りで行っている医療機関は、全国的に見てもほとんどありません。さらに内視鏡下耳科手術を局所麻酔日帰りで行っている医療機関は当院だけです。
しかし、その手術の効果は入院での手術と何も変わりませんし、安全で負担が少なく受けていただけます。
慢性中耳炎のQ&A
難聴かもしれないですが慢性中耳炎なのでしょうか?
まず受診していただいて聴力検査を行って、難聴があるかないかを調べることが必要です。難聴があるなら、原因がどこにあるかを検索してみることが重要です。難聴には様々な疾患があります。原因のはっきりしたものから遺伝性と考えられるものまで、治療により治りうるものかどうかを鑑別します。治りうるものの中に慢性中耳炎も含まれます。慢性中耳炎の診断であれば、感音難聴を併発していなければ治る確率は高いと言えます。
他の耳鼻科で鼓膜に穴があるので手術が必要と言われましたが、手術をした方がいいのでしょうか?
基本的には手術をしたほうがいいです。鼓膜を閉じることで聴力の改善が少ない場合もありますが、わからない間に耳垂れが出ていて感染を繰り返していることがあります。それにより穴のない耳に比べて感音難聴の進み方が早くなります。穴のない健康な炎症のない鼓室の状態であれば難聴の進度も炎症により早まることはありません。できるだけ早いうちに手術を受けて治しておいたほうが良いと言えます。
長い間、耳垂れを繰り返していますが慢性中耳炎なのでしょうか?
耳垂れが出るからと言って慢性中耳炎とは限りません。習慣的に耳を触る癖のある人では外耳炎により外耳道の皮膚から滲出液がくりかえし出ています。これにより薄い膜のような耳垢も増えます。慢性中耳炎による耳垂れより外耳炎による耳垂れの方のほうが圧倒的多いようです。習慣的な耳掃除はやめましょう。また子供時代に鼓膜にチューブが入っていた人や簡単な鼓膜の閉鎖術を受けた人の中に慢性鼓膜炎になる方がいます。この場合は耳垂れを繰り返し、なかなか耳垂れを止めることが困難な場合があります。一度正確な診断を受けてください。